優秀病棟素通り科

すっごい舞台を見てしまったな〜

生命力をもぎ取られたような、いや、すごいパワーを投げつけられたみたいな

大量の言葉と感情がいちどに体内に入り込んで、脳や心臓に突き刺さって、ひとつひとつが自分の経験や考え、感性などと繋がってハッとした

そのまますんなり理解した(というか受け入れられた)ものと噛み砕くのにまだ時間がかかりそうなもの両方あるけど

 

公私ともにすべてうまく行っている(少なくともそう思っているし見えている)若い男:飯塚と

はたから見ると色々うまくいっていない初老の女:梨田さんがひょんなことから出会って、

自分の人生を見つめ直してもうちょっと生きてみようかな、なんて少しだけ前向きになれるような作品。

 

〈飯塚哲人〉

若くして部長。仕事がとってもできる。上司からも気に入られてるし、部下からの信頼も厚い。

美人でちょっと派手な妻有り。素朴でかけがえのない日常。ウーバーしてふたりでネットフリックスを見ることが日課であり楽しみ。

 

〈梨田喜久枝〉

パワハラうつ病になった夫、反抗期の娘と3人暮らし。貧乏。悲惨な人生を歩む、人の事情に介入したがるおばさん。

 

飛び降り自殺を試みた飯塚だが、下を歩いていた梨田にキャッチされて(キャッチされて?)自殺未遂に終わる。

梨田は自殺した理由を問うが、飯塚自身もハッキリとした理由はわかっていない。

会社、家庭、友人関係、過去、どこに理由があるのが探っていく物語。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

結局仕事も家庭も友人関係も過去もなにも問題なし、極めて良好。

何も死ぬ理由は見つからなかった。

どこもかしこも幸せばかりだった。

全国民の幸せ値を超えていた。

きっと哲人はすべてがうまく行き過ぎたんだろうな

そして哲人は言う「幸せはいずれ窮屈で息苦しい世界に変わる」「幸せが大きければ大きいほど失うのが怖い(だから幸せなうちに人は死ぬ)」

そして「発送の逆転。幸せだから人は死ぬんだ」という結論にたどり着く。

自分が自殺を試みた原因はこれじゃないのかと考えて、興奮しながら(取り乱しながら)上記の言葉を発する飯塚さんとても狂喜だったな。

そしてそのセリフに対して梨田さんは

「私が生きる気満々なのは幸せが小さいからなのか?幸せのバリエーションなめんなよ」「どうして幸せがなくなる前提なのか」を問うて飯塚と言い合いになるんだよね。

飯塚さん、家庭でも会社でもうまーーーくやっているのにこのシーンでは感情をむき出しにした反応をするんだけどそれを見て、あぁこれ核心つかれてんな、梨田さんの言葉の中に突き刺さるものがあったんだよな、自分でもよくわからなくなってるんだよな〜って思った

 

 

「自分の見積もり(命の価値のこと)は自分だけでは出せない。」

「自分だけの分だったら見積もりはそりゃ低くなるよ」

「周りの人が自分のことを考えてくれている時間を含めて見積もらなければならないよ。」

「人生が2時間の芝居だとすると、本人のシーンと本人以外のシーンがあって、それが全部、あなたの人生。」

という梨田さんからの言葉で改めて飯塚は自分の命の見積もりをしてみると自分が想定していたよりもっともっと見積もりが高くなることが分かっちゃったんだろうな

結局「まだ死ぬ気なのか?」に対しては

「まだわかんねぇや〜わかったらまたいいます」なんだけど

もう飯塚さん自殺しないだろうな。

 

最後に高いところ(自殺を試みたビルの7階であろうところ)で再見積もりを考えてるとき後ろを振り向くと奥さん、同僚、後輩たくさんの人が笑ってくれているシーンとても良かった

 

飯塚さんと梨田さん、全部正反対のふたりを通して、そしてコロナを通して、私が大切にしたいものはなんなのか、優先順位は?、そして「どう生きていきたいのか」をすごく考えさせられる、全然見つかってないけど。

 

 

「死」とは?って重めの内容なのに所々コメディー要素が入り込むことで受け入れやすく

キャッチしたときの様子を再現するシーンとか子ども時代の回想シーンとか

子どもシーンはほんとに福ちゃんのスタイルのよさよ

めちゃめちゃ笑った

 

ほんとは梨田さんのようにいろんな辛いことがおこっても「日常なんてなんにもないよ〜普通だよ〜」って、愛する夫と娘と一緒に入れたら幸せだよって。

 

そんなふうに生きていきたいって思ってるのに、それに周りにも恵まれて自覚している辛いこともないのに、ふとこの世から消えてしまいたくなることがあるって飯塚だけじゃなくて割と多くの人が思ってることだと思うんだよなぁ(私も含め)

 

 

 

「なににも執着しない」(自分自身にも執着しない)みたいな文化がなんとなーく若い人たちの中にできてきている現代だからこそこの作品が刺さる人はたくさんいるんじゃないかな

 

最後に名前を聞かれて「僕、飯塚哲人っていいます」って名乗るんだけど、

名乗るというのはそれはこれから関係を始めるという前向きな、生きるための言葉だと私は捉えたのでそこでも生きていくんだなって分かった

 

福ちゃんが生きるとは?命とは?人生とは?を噛み砕いて自分なりの答えを見つけて表現したものを見れたこと、本当に有難い。

 

#優秀病棟素通り科